【Jマインド・イノベーション】 日本人の心で再び開拓・創造の躍動感を   

2019.2.4

常務理事 飯田 汎

◆失敗する余裕がない日本
 平成時代の完結を前に、歴史的な大きな転換点にあるわが国には大きな潜在力がありながら、世界における存在感が縮小の一途を辿っている。日本の過去・現在・未来を真剣に考えなければ、未来は失われたままとなるであろう。平成の30年の間、多くの改革を行ってみたものの、基本的な問題は努力の甲斐もなく一つとして解決しているとはいい難い。却って「国家の誇り」や「国家の大義」が消失し、産業基盤までも大きく損なわれてしまった。新たな時代を迎えるにあたって、私たちは今、思考停止状態から脱し、未来に向けたビジョンについて真剣に取り組む覚悟が求められている。


◆6回目の歴史の転換点は創造革命で
 古代から「連続と変化」を繰り返し、6回の歴史パラダイムを書き換えてきた日本はいま、6度目の転機の中にある。これまでの6回の時代は「義」及び「美」を核にした時代パラダイムが繰り返されてきた。
 一回目(古代~平安時代初期)、三回目(戦国時代~江戸開府)、五回目(戦前・戦後)の転機では、それまでの外部適合型の父性主導社会(義型パラダイム)の末期的混乱から安定した母性主導社会(美型パラダイム)への転換で乗り切ることができた。
 また二回目(平安末期・鎌倉開府)、四回目(幕末・明治維新)の転機は、逆に穏やかな母性主導社会(美型)が抱える頽廃的な矛盾から衰退期を迎え、外部適応(義型)が求められて危機脱却を果たした。危機克服の形が、戦乱による国家衰亡という危機からの脱却、内向きで頽廃衰亡する危機脱却と交互に到来していたのである。
 今遭遇する六回目の転機も、過度な内向きの美型パラダイムをよしとする社会の頽廃からくる衰亡であり、外部適合(義型パラダイム)社会を目指し、未知の世紀を開拓してゆく気概が求められる。実際、グローバルに展開する創造革命で応えてゆく時代認識が必要である。


◆対立する地球文明を乗り越えて
 二番目は、対立する地球文明という世界的視野で日本の立ち位置を見なければならない。ユーラシア大陸を基盤にして歴史を紡いできた世界の大国は、「力と闘争文明」原理を基盤にしてきたが、日本だけが古代から「自然と共生」原理に基盤を置いてきた。前者の原理基盤ばかりでは、宗教や資源を巡っての闘争が絶えず、21世紀の地球は滅びざるを得ない。私たちが世界と対峙するためには、自国の立脚原理だけでなく、他国のそれを併せて複眼思考を持たねば生き延びることは難しい。
 安定した地球の営みには、日本の担う「自然と共生原理」の役割が不可欠であり、わが国が国際社会において他国に伍し、地球規模の使命を果たすためには、自らの原理を基盤にしながら、「強き心」を取り戻さなければならない。


◆新たな価値観は日本固有文明への覚醒から 〔Jマインド・イノベーションの奨め〕
 三番目には、日本固有の価値観に目覚めなければならず、日本人の心性「Jマインド」の概念が重要である。このことで日本人の資質や能力が問われている。稲盛和夫氏による個人を対象にした名説、「成功のための方程式」(人生の結果=考え方×熱意×能力)を拡大し、企業や社会に適用して作成した単純な概念図「成功度仮説」(図1)を紹介したい。


 この仮説は物事の成否を決める目安を示している。いかに企業が優れた潜在能力をもっていても、また多くのエネルギーを事業に投入し、努力に務めても、それを支える精神や物事の考え方という立脚点が負の心なら成功度もマイナス、すなわち失敗・崩壊に繋がる。また、国民の潜在能力が優れ、いかに努力を傾けても、国民精神が負の要素に立脚すれば、国家は衰亡する。社会の負の要因をできるだけ抑制し、国民の心性をプラスに転じなければ、社会がプラスに転ずることはない。
 敗北主義、事なかれ主義、無気力、無責任など負の心性に立脚し、我欲に取り込まれて、ことを進めれば、頭脳明晰なリーダーがいかに努力を傾けても、迷走を食い止めることはできない。多くの企業による不正行為や、かつては考えられなかった官僚の文書改竄、隠蔽などの不祥事が後を絶たない。こうした社会倫理の頽廃の芽を摘み、教育行政の刷新を図るなど正の心性に基づき、国民の自助努力に覚醒する理性が育つことなく、眼前の課題解決のための努力をしても実りある社会は到来しないであろう。

 日本人の心性を「Jマインド」と名付け、正の心性を「+Jマインド」、負の心性を「-Jマインド」と命名した。かかるマイナスをプラスの心性に変える「Jマインド」の転換こそ喫緊の課題なのである。21世紀になって急速に高まる国際社会における経営者の高額報酬が経営基盤はもちろん、社会基盤を破壊することのないよう警鐘を鳴らしておこう。危機の時代における日本の「ノブレス・オブリージュ」は無私の精神であり、もちろん「+Jマインド」である。
 貧困に繋がるドクター過程への進学不振、また、困窮する学徒を放置していては、科学技術立国の再建は困難になる。また「美」型パラダイムから「義」型パラダイムへの転換に移行する時代に、憲法改正の課題は避けて通ることはできない。

◆日本人の誇りと気概を育てる教育を  
 日本列島は四季折々の変化が巡る自然環境の中で、稲作文化が定着したことにより「自然観」が育まれ、「美意意」が芽生えた。そして、狭い国土に過剰人口を抱え、鉱物資源の寡少な制約のもとで育まれた「行動規範」と社会における道徳観が身についた。20世紀全般を通し、誇るべきことの第一は世界から植民地支配をなくし、人種間差別をなくす世界理念をなすのに最大の貢献をしたことである。第二の誇りは、20世紀最大の発明「狭く人口過多で資源もない国でも、豊かになれる日本型発展モデル」を作り、世界に多大な影響を与えたことにある。
 21世紀の日本の使命は何か。エネルギーや鉱物資源を千年持続型で賄える文明を創り上げ、叡智を傾けて地球から貧困を無くすことである。「+Jマインド」を基盤にしたJマインド・イノベーションで押し広げる世界は無限である。 

 参考:新保祐司「改元を期に日本を“義の国”へ」産経新聞(平成31年1月8日)